自宅を建て替え

父親の介護と快適な暮らしを実現するために二世帯住宅への建て替え/東京都目黒区

親と一緒に暮らしたい。
その願いから生まれた二世帯住宅がある。
親子が仲良く暮らせる家にしたいという強い気持ちが、つくり手との良き出会いにつながった。

その想いが詰まった家づくりを紐解いてみた。
きっかけはお父様の介護だった。

仲良く暮らすための家を求めて

人は生きていく中で、幾度かターニングポイントというものを迎える。人生の分岐点、家をつくることはそのひとつなのではないだろうか。

永年住み慣れた家が気がつくと、家族構成が時とともに変遷していて住みづらくなっている。3姉妹で2人は別所帯をもって家から旅立ち、両親と3人になったU様は、車いすで療養中のお父様のために住みやすい家をつくりたいと一念発起した。今から3年前のことである。

自分はどう家族と暮らしていくのか、どんな家にすれば住みやすくなるのか、U様はそれと向き合うことになった。そしてみんなが健やかに暮らせる介護しやすい家をつくろうと決意した。

まだ漠然として頭の中に鮮明な家づくりのイメージが掴めずに悶々としていたU様が訪れたのが、東京ビッグサイトで開催された「朝日住まいづくりフェア」。そうかと目から鱗の出会いをする。ネクスト・アイズの住宅コンサルタント栗原氏のセミナーだった。そして栗原氏に家づくりの想いを相談、そこからU様の家づくりが始まった。

最初は何かイメージが自分の中で固まっていくのを待つかのように家づくりをぼんやりと考えていたという。セミナーを受けた時、どうしても実現したい考えが浮かんだ。介護がしっかりでき、自分で「野菜づくり」ができる家だった。新鮮なおいしい野菜を食べたい、そして両親に食べさせたい。この限られた土地でそれは可能なのだろうか。
1.2階スペース。高いところが好きということで、作りつけのクローゼットの棚がベッドルームに。
2.2階スペース。ロフト分天井が高く空間に広がりを与えている。
3.隠れ家のような畳の間。低い天井には網代が使ってあり、この畳の下は深さ140センチの収納スペースになっている。U様一番お気に入りのスペース。

ヴァーサスがコラボになった

U様は栗原氏が紹介した設計事務所、施工会社など数社を比較し、そして最後までどうしても甲乙つけがたい2社が残った。建築家小沢氏の株式会社FAR EASTと、清野社長の株式会社ホープスだった。

「2社とも良くて絞りきれないので、この2社を合体させたらどうでしょう」とU様。それを受けて、「これまで何百件と施主と建築会社のご縁をつないできましたが、こういったコラボレーションするケースは初めてじゃないかな。今までコンペで対決した2社に協力してもらいました」と栗原氏。

前例がない発想の転換だ。相乗効果を発揮することになるコラボレーションがここに実現した。栗原氏は言う。「設計と施工で価値観とかが合っていないとコラボはうまく進まない。そしてそれは最終的に施主さんのU様に跳ね返ってきてしまうことだから重要なのですが、この2社なら合うかなと最初から思っていました」

夢を実現するための工法があった

そうして具体的な家づくりが始まった。家庭菜園に使える場所として庭は駐車場に取られてしまったので、3階屋上につくることになった。土砂は重たいので丈夫な家でないといけない。それには株式会社ホープス清野氏の提案するSE工法を採用することで解決。「木材のみで鉄骨構造に並ぶ強度をもたせた工法です。4.5m×10mの広いスペースの中に空間をさえぎる柱が無いので、広々使えます」と清野氏。

「1階を私が使って、2階を母が使うのですが、フロアをあまり細かく区切って使いたくなかった」というU様の希望にピッタリの工法でもあった。1階も2階もSE工法の恩恵を受けて広々した空間になった。加えて耐震性が確保され、長期優良住宅の認定を受けた。

施工を担当した清野氏は語る。「1階はその4.5m×10mを何もない空間にして広がりをつくり、収納は畳の下に1.4mも深さのある大きなものを設ける工夫をしました。中央の棚は両側からロールスクリーンを垂らすことで部屋を分けることができる。高さを利用し上の方にも棚をつけ収納を設けました。2階は、4.5m×10mというブロックは同じですが、間仕切りと収納を利用した壁を設け、上に勾配屋根を使ったロフトを設けることで高さ方向に空間を広くとる設計にしました」
1.本来はお父様のことを考えて付けたエレベーターで、これで3階の屋上菜園にも行ける。
2.3.1階のキッチンは、玄関入ってすぐのところにある。スライドドアを閉めるとシンプルな白い廊下に変身する。
4.左からU様、ネクスト・アイズ株式会社コンサルタント栗原氏、株式会社ホープス清野社長、U様お母様。

ワクワクする家になった

U様の一番のお気に入りは、1階の奥に設けた2畳ほどのまるで隠れ家のような畳スペースだ。

「天井が網代仕立てになっていて、ここに座るとすごく落ち着くんです。最初は別に和風にするつもりはなくて、ただ天井の低いスペースというリクエストだったのです。すごく気に入っていて、座ったらもう出られないという感じですね。そこで知らないうちに寝てしまったりするぐらいです」この畳の下が大きな収納スペースになっている。

家族が仲良く暮らすためには、ホッとする自分の居場所が必要不可欠だ。登山が大好きなU様らしいのが、ベッドルーム。なんと本来クローゼットとしてつくった棚の上に寝ている。ワクワクする空間だそうだ。
 
母と娘それぞれの使い手らしさを感じさせているキッチンは、1階と2階に独立させた。2階、3階への移動はお父様のためにホーム・エレベータを設置、廊下は車椅子が通りやすい広さを確保。介護する方にもされる方にもやさしい工夫が盛り込まれた2階スペースになった。

「手すりをつけていただいて、バスルームやトイレも幅広くつくっていただいたんです。今は娘とふたりになってしまいましたが、いずれ誰でも老います。介護しやすい家をつくったら、気がつけばそれが安心な家になっていて、私たちにも快適な家になりました」とお母様は言う。

親と一緒に楽しく暮らしたいという熱意が伝わってくるU様邸。つくりたかった家庭菜園も介護にやさしいフロアづくりも独立したキッチンも、すべてそれらは健康で快適な暮らしを願っている親子が望んでいたものだ。

「この家をつくるにあたって、住宅コンサルタントとの出逢いは大きかったと思います」とU様。親を想う気持ちをカタチにしてくれた設計と施工の質の高さが結実してつくり出した、希有なコラボレーションが生んだ空間である。
物件名
東京都目黒区 U様邸
家族構成
お母様+娘(2人)
構造工法
在来軸組み工法(SE工法)
設計
株式会社FAR EAST
施工
株式会社ホープス
住宅コンサルタント
栗原 浩文(ネクスト・アイズ株式会社)
取材・文・撮影/田原 直

関連記事